『記憶スケッチアカデミー』って、ご存知でしょうか。以前、カタログ雑誌「通販生活」誌上で行われた企画で、同誌読者に毎回「お題」を提示し、記憶のみに頼って描いた絵を投稿するよう呼びかけたものです。応募者の「記憶力」というか「創作力」がすさまじい上に、故ナンシー関 さんが加える寸評が大変小気味よく、私はその絵と寸評の両者が醸し出す、なんともいえない雰囲気に一時期ハマっていました。(ネット上でも一部公開されていますので、ご興味をもたれた方はこちらをのぞいてみてください。)
その『記憶スケッチアカデミー』の「牛の巻」で、ナンシーさんが
市場へ売られていく牛を歌った「ドナドナ」でもわかるように、…
と書かれていて、はて、「ドナドナ」って、そんな歌だったっけ? と思い、調べてみたことがありました。
こちらは、Joan Baezさんが英語で歌っています。
YouTube: JOAN BAEZ ~ Donna Donna ~
こちらは、NHKの「みんなのうた」(1964年)で流された日本語版です。
YouTube: 童謡唱歌 donnadonna ドナドナ by taro
英語と日本語の歌詞を比較してみますと、日本語のほうが圧倒的に情報量が少ないです。日本語は英語に比べ、1つの音にのせられることばが非常に限られるので仕方がないのですが、子ども向けの歌として、あまり残酷なイメージが湧かないよう、訳者が気を遣ったということもあると思います。
英語版では、子牛が屠殺(slaughter)される運命にあることをはっきり示しており、つながれて自由のない子牛と、空を自由に飛び回るツバメを対照させた上で、自由が欲しいのなら飛ぶことを学べというメッセージを送っています。(この歌は、ユダヤ人がナチスによって強制収容所に連行されていくときの様子を歌ったものという説もあるそうです。)
日本語版だと、「市場に売られる」としか言っていないので、想像力をしっかり働かせないと、「どこか別の牧場に行くのかなあ」なんて思ってしまいそうです。
しかし、今の日本では、こうした想像力を働かせられる人が少なくなってきているのではないかと思うことがあります。
ある肉牛牧場のテレビCMでは、着ぐるみの2頭の黒毛和牛が出てきて、温泉に入ったり、ゴルフを楽しんだりするシーンの後、ステーキ肉がジュウジュウと音を立てている場面で終わります。とぼけた愛嬌のある牛を見せた後、肉の切り身をドンと出す。一体全体どういうセンスなんだ…(呆)。
また、私は、ある有機農産物などの宅配サービスを利用しているんですが、そこでは毎年、特定の牛肉商品を購入すると、抽選で牛のぬいぐるみがもらえるというキャンペーンをやっているんです。このぬいぐるみ、とっても可愛くできているだけに胸が痛みます。かわいい牛のぬいぐるみを愛でながら、ステーキや焼き肉に舌鼓を打つ家庭があるのかと思うと、複雑な心境です。
みんな感覚が麻痺しちゃったんでしょうか。私も昔は肉を食べていましたが、食べている動物の生前の姿を見るのは、正直、辛かったです。食事中に牛や豚、鶏がテレビに映し出されたりなどしたら、いたたまれなくなって、即テレビを消したりしていました。
肉料理の味が好きで肉食をやめられないというのは、まだなんとか理解できるのです。食習慣を変えるのは、大変なことだと思いますので…。でも、動物の擬人化した姿を見てほほえましく思ったり、愛くるしい表情に和んだりした後に、その動物たちの肉を平然と食べるという感覚には、とてもついていけません。
コメント
★hhiedaさん
コメントありがとうございます!
ドナドナは思いのほか暗く、深い意味があったみたいで、私も調べて初めて知りました。ただ、オリジナルはイディッシュ語なので、もしかしたら英語版ともちょっと違うのかもしれません。とりあえず、私の頭の中では、イディッシュ=ユダヤ=ホロコーストというような図式ができあがっていますが…。
日本語版の歌詞は英語版ほど具体的ではないけど、アレンジのせいか、英語版より切迫感を感じます。後半アップテンポになると、荷馬車がスピードアップしているようで、市場に早く着いちゃうんじゃないかと心配になりますし(笑)、緊迫した状況を盛り上げるバックコーラスなども入って、音楽としては英語版より悲劇性を伝えているような気もしました。
はないちもんめ、教えていただいたサイトを見ましたが、悲しい背景ですね。なんとなく知ってはいたんですが、あらためて詳しく見ると、重いです…。はないちもんめで遊ぶ子どもというのは、幼稚園とか小学校低学年でしょうか。重い背景を理解するには幼すぎる年齢ですが、大きくなって「そういうことだったのか!」と気がつく日がくると思うので、子どもの遊びとして継承していくのは、意味があることなのかもしれません。
牧場で草を食べている姿と、スーパーに並んでいるきれいにパックされたお肉の間に、何が起きているのか、なかなか想像しにくいし、想像したくないというのが人情ですが、そういう中で、畜産・食品業界が明るいイメージだけを刷り込んで、肉食を煽ろうとしている風潮が気になります。
投稿: Norah | 2011年8月 3日 (水) 08時55分
こんにちは!
先ほど英語の歌詞をGoogle翻訳を使いながら意味調べをしましたが、見事に哀れな歌詞であるとわかりました。それにしても日本語訳だけだと、殺される運命が待っているというところまでは想像付きませんね。なぜ暗い曲調なのか、が若かりし頃の自分にはわかりませんでした。
「花一匁(はないちもんめ)」のもともとの話と同じような歌だとも思っていました↓
http://homepage1.nifty.com/cats/music/hanaichi.html
有名な子供の遊びですが、その詩には深い意味があるらしいですよね。
花一匁の場合、その後殺されたのかどうかはわかりませんが、ドナドナの原曲でははっきり「殺される」と言ってますからね・・・
うちの父親は、TVで生きたタコやイカが出てくると「おいしそう」と言う人でした;汗
僕も以前はタコもイカも大好きでしたが、やはりその後どうなってしまうかを考えると悲しかったですね><
牛肉の特集番組で、牧場に生きた大田原牛が出て来た時には「この牛も吊るされて殺されてしまうのか」と思ってしまいましたが一般視聴者の方たちにはそんな感情はなかったのかなあ、なんて思ったりもしました。
投稿: hhieda | 2011年8月 2日 (火) 18時40分